「選択」 5月号 64頁〜66頁

三井住友の悪質「詐欺まがい商法」
  「為替商品」で中小企業をカモに


 銀行が中小企業に対して、「ドルを安く買う権利」と引き換えに「ドルを高く売りつける権利」を手に入れる−聞くだけでややこしい「為替デリバティブ」と呼ばれる「金融商品」がある。「為替変動によるリスクヘッジ(損失危険の回避)に有益だ」との触れ込みで近年、銀行が方々で売りまくってきたいわくつきの「商品」だ。
 だが、企業経営の支えになるはずのこの商品をめぐり、最近水面下でトラブルが多発している。昨今の円高ドル安により、契約した企業一社あたり数千万円から億円単位の損失を被る事態に陥っているのだ。そして彼らの損失は、なんとそのまま銀行の「儲け」と化している。
 純粋に為替変動が原因のように見えなくもないが、被害者救済に乗り出している、金融商品被害に詳しい岡林俊夫弁護士は、「銀行が絶対に儲かって、顧客が絶対に損をする。為替デリバティブというのはひどい商品だ。特に悪質性が目立つのが三井住友。被害状況はもとより、実態調査への協力拒否や被害状況の隠蔽ぶりは目に余る」と語る。
 メガ銀行が悪質商法とはにわかに信じがたい話だが、複雑な商品の実態を解明していけば、やはり“いかさま賭博”といっても過言ではない詐欺まがい商品を売りまくる三井住友銀行の欺瞞が浮かび上がってくる。

強引な融資勧誘をきっかけに
 〈中小企業向け為替デリバティブ取引状況(米ドル/円)に関する調査の結果について(速報値)〉
 そう題された報道発表文が金融庁のホームページに掲載されたのは、2011年3月11日。折しも東日本大震災が発生した日のことであった。報道発表は、銀行が中小企業に売りつけている「為替デリバティブ」という金融商品について、金融庁が初めて行った実態調査の結果である。10年9月30日現在、約1万9000社に対して4万500件の契約がなされているというものだった。 この数字が意味するところを、以下、実際に為替デリバティブを契約した企業主の体験を通じてみていきたい。
 「正直(自殺を)覚悟した。生命保険を確認した。命に代えてでも会社を守らないといけないと・・・」
 そう話すのは東日本の某地方都市にある資材加工会社の社長Aさん(61歳)だ。年間売り上げ約10億円、従業員30人を雇用する地元の優良中堅企業だ。Aさんは苦悩していた。原因は約5年前、三井住友と交わした「為替デリバティブ」契約だ。この忌まわしい契約のために毎月数百万円の損失を何年にもわたって支払わされる事態となっていたからだ。
 為替デリバティブの仕組みは複雑である。契約者であるAさん自身、いまだによく理解できていないのだが、ごく単純化すれば、
@銀行から会社に対して「銀行から(市場より)安いドルを買う権利」を差し出す。
A会社から銀行に対して「会社に向けて(市場より)高いドルを銀行が売りつける権利」を差し出す。
 この@とAの「権利」を交換するという契約だ。契約期間は5年とか10年とかいった長期にわたる。たとえば、円安ドル高であれば、会社が権利行使して、安いドルを銀行から買う。そのほうが得だからだ。だが逆に円高ドル安になれば、銀行のほうが権利を行使する。つまり、市場より高い価格でドルを会社に売りつけてくる。この場合、会社は損をし、銀行は儲かる。為替デリバティブの問題の本質は、まさにこの銀行による「ドル売り」にあるといってよい。
 Aさんの会社が三井住友に払うことになった毎月500万〜600万円のカネも、昨今の円高ドル安により、銀行側が「割高のドルを売りつける権利」を行使した結果だった。損失はざっと2億円だ。
 為替デリバティブを銀行が販売する表向きの目的は「為替変動のリスクヘッジ」で、販売対象者は輸出入など外貨決済をしている会社ということになっている。ところが実際は、輸出入業者以外にも多数売られている。Aさんの会社も輸入業者ではない。決済はすべて日本円。為替変動リスクはおろかドル紙幣自体と縁がない。そんなAさんが為替デリバティブを買ったきっかけは三井住友からの強引な“融資勧誘”だったという。
 
「解約するには数千万円が必要」
 Aさんが振り返る。
「06年ごろだった。三井住友の行員が会社にやってきて、融資どうですか、と言ってきた。それまで付き合いはなかった。無担保でしかも金利がよかったので借りたが、『為替デリバティブ』の話が出たのは、それからまもなくだった。こんなんありますが・・・と。ドルは関係ないと断ったんだが」
 輸入していなくても輸入品を扱っているのだから問題はない。行員はそんな説明をしたという。「今のレートで推移すれば利益が出る」「ドル安になる恐れは小さい」とも言った。勧誘は執拗だった。当時のレートは1ドル110円くらい。それが100円ほどで買えるとの内容だった。これを毎月5万ドルで5年間続ける契約である。ドルが契約価格の100円を上回っている限り、差額分が会社の利益になる。
 契約の翌月、事実約50万円の「利益」が会社に入った。行員がやってきて、新たな契約を勧め、毎月5万ドル5年間の契約をさらに交わす。
 毎月数十万円程入っていた利益が損失に転じるのに1年を要しなかった。じりじり円高が進み、08年のリーマンショックを境に1ドル90円台に。さらに80円台から70円台に突入した。もはや「利益」どころではない。1ドル80円のドルを100円以上で買わねばならない。毎月20万ドル。契約書の取引額は10万ドルなのにどうして20万ドルも買わなければならないのか。そこには「レシオ特約」をいうカラクリがあった。
 銀行が「ドルを売りつける権利」を行使する際、取引量を2倍に増やすことができるといのが「レシオ」だ。これによって、契約上の取引高が各5万ドルであるにもかかわらず、その2倍にあたる20万ドルもの割高なドルを、三井住友はAさんの会社に売りつけてきたのだ。予想もしなかった事態にAさんは三井住友に解約を願い出た。しかし、契約時の行員はすでに転勤しており、銀行の答えはにべもなかった。
〈解約するには数千万円の解約金を払う必要がある−〉
 なぜそんな法外な解約金になるのか具体的な説明は一切なかった。

中国まで押しかけ「勧誘」
 Aさんの話を聞けば、まさに博打同然である。ただ賭博なら顧客が勝つ可能性があるはずだ。その点について、為替デリバティブに詳しい玉川大学の島義夫教授は「為替デリバティブというのはリスクヘッジなどではない」としたうえでこう話す。
「投機、あるいはギャンブルといってもいいですが、買った者は円高になったら大損をする、円安になったら少しだけ儲かるという不公平なものです」
 ギャンブルはギャンブルでも顧客が勝つ可能性はきわめて小さい。なぜそんなことになるのか。そこにもまたカラクリがある。顧客が銀行に「勝つ」とすれば円安になった時だが、その際、一定価格まで円安が進むと契約会社となる「ノックアウト条項」という特約がつけられている。顧客が「勝ち」始めてもすぐに打ち止めになる仕組みだ。逆に円高の場合は、先のレシオ特約で銀行がボロ勝ちできる。とことん銀行に都合よくできているのだ。
「銀行が圧倒的有利。金融のプロなら絶対に手を出さない代物。それを『リスクヘッジ』を口実に素人に売りつける。ハイリスクローリターンのとんでもない商品です」(島教授)
 岡林弁護士によれば、「ある銀行の行員は、勧誘相手である中小企業の社長を追って、出張先の中国にまで押しかけた例もある」という。この取引がいかに銀行にとって「おいしい」のかを物語る。
 銀行が「絶対に勝つ」ように仕組まれた「いかさま賭博」としかいいようがない。この手口による銀行の儲けは、島教授の推計によれば、1件あたり数千万円から1億円。業界全体でみれば軽く1兆円前後に達する。むろん中小企業からむしり取った金である。
 こんなあこぎな商売に、銀行はいつから手を染めたのか。島教授によれば、おそらく02年の金融再生プログラムがきっかけだという。当時不良債権処理と業績改善を迫られた銀行が、手っ取り早く利益をあげようと思いついた手口だったのではないか。顧客はすべて金融の知識が乏しい中小企業。大企業は1社もないという。銀行が中小企業をカモにした為替デリバティブ。被害が広範囲で深刻であることは、冒頭の金融庁調査からも容易に想像できる。
 三井住友はトラブルの発生件数などに関する弊誌の取材に対して、「為替デリバティブは販売しているが、(顧客との訴訟、調停件数は)回答を差し控える」「従来より為替デリバティブ契約は、お客さまの為替リスクヘッジ・ニーズにお応えするための商品として取り扱いしている」という内容の乏しい回答を寄せた。
 金融機関を刺激することを恐れてか表面化した被害はわずかだ。銀行側も、守秘義務の縛りをかけたADR(法定外紛争解決手続)で実態の表面化を抑え込んでいるともいわれる。それでも公に告発する動きが出始めている。前述したAさんは、岡林弁護士の助けを借りて、近く三井住友を相手取った訴訟を起こす予定だ。経営者の善良さに付け込んだ銀行の為替デリバティブ。そのイカサマぶりが法廷で暴かれる日は遠くない。


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