「経営者通信」 4月号 28頁〜31頁

為替デリバティブ被害から中小企業を守る
〜専門知識・経験をもとに問題を解決する法律のプロフェッショナル〜

弁護士法人 岡林法律事務所
代表弁護士 岡林 俊夫

 空前の円高が続く昨今、中小企業の経営に大きな影響をおよぼす問題がある。円高になると企業の損失が大きく膨らむ金融派生商品「為替デリバティブ」だ。為替デリバティブは2002年に策定された「金融再生プログラム」を受け、各銀行が収益力を強化するために多数販売。金融庁の調査によると、2010年9月末現在で為替デリバティブの契約を保有する企業は、約1万9千社にものぼる。そこで今回は、法律のプロという立場から為替デリバティブ問題に取り組んでいる岡林俊夫弁護士に、被害を最小限に防ぐ方法などについて話を聞いた。

◆気づかないうちに無限大のリスクに変貌する金融派生商品

―為替デリバティブによる損失で、倒産危機に陥る会社が増加しています。その背景を教えてください。

 為替デリバティブは、2002年に竹中金融担当大臣(当時)が策定した「金融再生プログラム」により、各銀行が収益力強化のために販売を行った金融派生商品です。ですから、銀行側の「顧客企業の為替リスクを回避する」という販売名目は単なる建前。すでに取引・契約の時点から、銀行側に有利な商品特性になっていたのです。

 実際、銀行は契約と同時に数千万円、場合によっては1億円近い巨額の利益を計上します。一方、企業側は契約時のコストがゼロ円であるため、リスクの大きさを意識せずに契約してしまいます。そして、企業は円高・ドル安になると大きな損失を受ける半面、銀行は円安・ドル高が進んだ際に強制的に取引終了となる「ノックアウト特約」によって守られ、大きな損失を被らずに済むのです。

 こうした不平等な契約および、予想以上に長く続く円高傾向により、何百万円、何千万円という清算金を毎月、銀行に支払わなくてはならない企業が数多く生まれています。たとえ本業が順調であっても、為替デリバティブによる損失のせいで倒産の危機に立たされる優良な中堅・中小企業が急増しているのです。

―すでに為替デリバティブを購入してしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

 契約内容・損失金額などに関係なく、専門家に相談するのが得策です。中でも、あと何年もデリバティブの契約が残っているという企業は、できるだけ早く相談することをおすすめします。現在の円高傾向が続くかぎり、支払いの負担も続くからです。また、デリバティブの契約が終わった会社であっても、これまでに支払った金額の一部を取り戻せる可能性があります。

 為替デリバティブによって損失を被った企業には、ふたつの選択肢があります。ひとつは全国銀行協会やFINMAC(証券・金融商品あっせん相談センター)へのADR(裁判外紛争解決制度)申し立て。もうひとつは裁判所への訴訟提起です。ただし、どちらも専門知識や煩雑な手続きなどが必要となり、企業が独力で行うことは現実的ではありません。

 ですから、為替デリバティブに精通した弁護士に依頼することが大切です。なぜなら、この問題は金融という特殊かつ、比較的新しい分野であるため、弁護士なら誰でも扱えるという案件ではないからです。

◆銀行への支払いストップこそ、問題解決の第一歩

―弁護士への依頼後、どのような流れで問題が解決されるのですか。

 まずは、銀行への為替デリバティブ清算金の支払いを停止します。銀行もある程度は為替デリバティブの契約内容の不当性を認めているため、実は簡単に実行できるのです。多くの経営者の方々が危惧するような、「今後の融資に影響する」ということは、ほとんどありません。

―銀行への支払い停止後は、どのような選択肢がありますか。

 「ADR」もしくは、「訴訟提起」という方法があります。一般的にADRは「今後もデリバティブの契約期間が残っているため、銀行に支払う清算金を減らしたい」という場合。中でも、「輸入業でないのに為替デリバティブの契約をすすめられた」という企業の場合は、ADRでスムーズに問題を解決できる可能性が高くなります。一方、訴訟提起は「デリバティブの契約期間は満了し、清算金の支払いも終了しているが、清算金の過払い分を取り戻したい」という場合に多く選択されます。

 ただし、ADRと訴訟提起のどちらを選択すべきか、一概には言えません。例えば、自社の取引銀行がメガバンクの場合には、今後の良好な取引関係の継続を踏まえ、ADRを選択する。また、地方銀行の場合には、法的手段に訴えるほうが、むしろ清算金が減額される傾向にあるため、訴訟提起を行う。あるいは、「ある程度の条件で早期に和解したほうが被害額を低減でき、会社存続へのメリットがある」という判断のもとにADRを選ぶなど、個々の企業の状況によって臨機応変に対応する必要があります。

―ADRを行う際に、気をつけることはありますか。

 はい。それは「和解できるチャンスが一度しかない」ということです。ですから、一度きりのADRを有効活用する必要があるのです。また、ADRは調停ですから、企業と銀行の双方が合意しなくては成立しません。銀行側はあっせん案を受けいれる場合が多いのですが、企業側は無理に受け入れる必要はありません。あっせん案に納得がいかなければ、拒否して訴訟提起を行うこともできるからです。

 しかし、訴訟を提起しても企業のメリットにならなければ、あっせん案を受け入れるべき。つまり、訴訟提起を選択するには、裁判に勝てるかどうかを判断する専門的知識が必要なのです。

◆法律だけでなく、「数字」・「統計」・「為替」の知識が重要

―裁判に勝つためには、どのようなノウハウが必要ですか。

 法律の専門知識に加え、「数字」・「統計」・「為替」などを有効に利用する力が求められます。つまり、為替デリバティブを理論的に、数字で評価することが重要なのです。単に「このデリバティブ契約は不当だ」と、通り一遍の主張を繰り返すだけでは不十分。その不当性を明確に数字で示し、裁判所に提出することで、有利な判決を獲得できる可能性が高まります。

 しかし、為替デリバティブの不当性を数字で示すのは、非常に専門性の高い作業であり、どの弁護士にもできるものではありません。例えば、「デリバティブ契約を解約したい」というある企業に対して、銀行から莫大な違約金が課せられたとしましょう。その金額が適正かどうかを評価・分析する場合、※ブラックショールズ方程式など、非常に高度な計算式を用いて判断する必要が生じます。

 こういったケースについても、当弁護士事務所では有利な判決を導くための対応が可能です。なぜなら私自身が東京大学経済学部出身であり、経済や為替に関する基礎知識が豊富であることに加え、公認会計士と提携することで専門ノウハウを蓄積しているからです。

◆弱者の立場で、不均衡に対抗する

―岡林さんが為替デリバティブに取り組むようになったきっかけを教えてください。

 私には弁護士になった当初から、「弱者の立場に立った弁護を行いたい」という想いがありました。世の中に存在する不均衡のせいで被害に遭っている人々を救済したいと考えていたのです。

 ですから、「交通事故」・「先物取引」・「消費者金融などに対する過払い金請求」などの訴訟でも一貫して被害者側に立つ方針をとっています。

 そして為替デリバティブも、まさに強者と弱者の関係の中で起きている問題です。顧客企業に融資を行う側であり、法律の専門知識を持っている銀行が強者。専門知識もなく、融資元である銀行に対して強く主張ができない企業が弱者です。ですから、私は弁護士という立場から会計士などの専門家たちともに為替デリバティブ問題に向き合い、企業の被害回復に取り組んでいるのです。

◆銀行に対する固定観念を変えよ

―為替デリバティブ問題を抱える経営者の方々へアドバイスをお願いします。

 第一に、銀行に対する意識を変えてください。為替デリバティブにまつわるすべての問題の根源には、経営者の「銀行に対する意識」があると私は考えています。恐らく、ほとんどの経営者の方が「銀行を怒らせてはいけない」、「銀行には従わなくてはいけない」と考えているのではないでしょうか。

 そもそも、そんな固定観念から、銀行が言うままに為替デリバティブを契約してしまったケースが数多くあるはずです。中には、銀行に対して直接交渉をする経営者もいますが、その際、「為替デリバティブの損失分を一般的な借り入れに切り替える」という、銀行にとって有利な契約を新たにすすめられる場合も少なくありません。こうした不利な契約を積み重ねることなく、銀行との交渉をスムーズに進めるためには、やはり専門家の力が必要です。

 実際、銀行も取引先である企業の倒産を望んではいません。倒産されるよりはむしろ、ADRによって存続してくれる方が銀行にとっても望ましい結果なのです。だからこそ銀行は、ADRの申し立てに応じるのです。

 第二に、「すべてが自分の責任だ」と思う必要はありません。確かな技術や商品を持ち、これまで自社を地道に育ててきた真面目な経営者の方こそが、為替デリバティブ問題に直面しています。そうした経営者の方々は、「すべては契約した自分の責任だ」と思いつめてしまいがちです。しかし、そもそも為替デリバティブの商品特性や銀行の販売方法に問題があったのです。

 本業で業績をあげている優良な中堅・中小企業が、自社が契約する為替デリバティブによって経営の体力を奪われる。ましてや倒産するなど、実に不合理。日本経済にとっても大きなマイナスです。だからこそ、私はこれからも弱者である企業の立場に立って、為替デリバティブ問題のサポートを一件でも多く行いたいと考えています。

※ブラックショールズ方程式:金融派生商品の価格づけに使われる確率微分方程式。


トップページへ戻る