「ベルダ」4月号 22頁~25頁

銀行悪徳商法
中小企業を食い物にする「為替デリバティブ」の実態

「為替デリバティブ倒産」がここ数年で増えてきた。二〇〇四年から〇七年にかけて、メガバンクを中心とした金融機関が中小企業相手に大量の為替デリバティブを売りつけたことが原因だ。そもそも為替デリバティブは為替の変動リスクをヘッジする目的でつくられたものだが、「銀行だけが儲かる商品」と言われるように、買わされた会社は必ず負ける仕組みになっている。ここ数年、銀行を相手取り、訴訟、金融ADR(裁判外紛争解決制度)が相次ぎ起こされているが、表沙汰になっているものはまだ氷山の一角にすぎない。ほとんどが泣き寝入りの状況にある。同訴訟を手掛ける岡林俊夫弁護士(弁護士法人岡林法律事務所)に、詐欺まがいの銀行商法の実態について聞いた。

 為替デリバティブの被害状況は現時点でどれぐらいの規模になるのか。

 岡林 金融庁の統計では被害件数六万件、約二万社の企業が被害にあっている。単純に、一社につき一億円の被害で計算すると、総額は二兆円にのぼる。しかし、一社で十数億円の被害を受けた会社もあるので、実際の金額は二兆円以上の規模にのぼると思う。

 訴訟等はどうか?

 岡林 弁護士への相談や銀行との和解、訴訟等を含め、現在まで大体一〇〇〇件程度。被害企業二万社の一割にも満たない。

 現在の販売状況とは?

 岡林 最近は減ってきている。しかし、昨年の契約を見る機会もあるので、まだ販売されているものもあるのだろう。販売のピークは二〇〇四年から二〇〇七年までのものが大半だ。

 「為替デリバティブ」とはどのような商品なのか?

 岡林 輸出入企業が相場変動に伴う為替リスクを抑えるために、あらかじめ一定の価格で外貨を売り買いしておくための契約のことだ。たとえば、輸出企業が長期的に円安・ドル高が続くと予想した場合、足元の相場より円高水準でドルを買える取引をしておけば、ドルの調達コストは実際の相場よりも割安になる。逆に、予想に反して円高が進めば、ドルの調達コストは割高となる。為替デリバティブには、「プレーン・バニラ(チョコレートなどの混ざりモノのないアイスクリームのように、純粋な商品という意味)」と呼ばれる単純な商品から、予約レートを引き下げるかわりに「特約」で円高時に企業の外貨買い取り額を二倍、三倍にする「レシオ」など、多種多様な商品がある。

 具体的にいうと?

 岡林 「プレーン・バニラ」は、特約のない通常の基本的なオプション取引のこと。基準となるレート(行使価格)があり、そのレートより円安ならば会社が行使し、円高ならば銀行が行使する。結局、ずっと同じレートのままで売買をする形になる。たとえば一ドル=一〇〇円で五年間ずっと買い続けたとする。一〇〇円より円安であれば、会社が一〇〇円で購入する。一〇〇円より円高であれば銀行が一〇〇円で売るというもので、会社、銀行間で一ドル一〇〇円のレートのままで、五年間取引しましょうという形のものが多い。これが基本的な為替デリバティブだ。フォワードレート(先物為替レートは自動的に決まり、一年後、三年後、五年後に必ず円高で取引されるようになっている。フォワードレートと、実際の一年後のレートがどうなるかは別問題で、フォワードレートは、現時点で、一年後のドルと、円を交換しようというときに決まるレートで一年後にどういう相場になっているかは全く関係ない。フォワードレートは円高方向に向かうというのが前提だが、そのことを「銀行は知っている」が「会社は知らない」ので、実際のレートよりも、高い値段で買わされる。要は、「高い手数料を払って、ドルを買う契約」というのが為替デリバティブの根本になる。

 しかも、契約した瞬間に手数料が発生し、銀行には多額の利益が発生する。

 レシオとは?

 岡林 為替オプション取引の多くに付されている特約のことだ。コール・オプションの買い取引の取引額に対して、プット・オプションの売り取引の取引額が、二倍、三倍に設定されている。為替デリバティブ取引では、レシオが円高局面にだけ付いていることが多く、その損失は二倍、三倍となり、損失が大きく脹らむ。、「円高」のオプションは銀行だけが行使できるもので、会社にとっては全くメリットがない。逆に、銀行にはまったくリスクがなく、円安になっても行使されずにゼロになるだけ。

円高になると会社はものすごい損失が生じ、銀行に利益が出るという仕組みだ

 ノックアウトとは?

 岡林 円安になりすぎると、銀行の損失が膨らむので、契強制的に取引を終了するという約束だ。たとえば、野球で五点以上差が開きそうになったら、勝手にノーゲームを宣告できるようなインチキな仕組み。これは賭博にもないようなひどいルール。

どうやっても勝てないような仕組みになっている。要するに、会社からカネをむしり取るシステムになっている。

超円高で倒産企業が続出

 現在、超円高傾向にある。為替デリバティブを購入した会社は大損したのでは?

 岡林
 近時の円高というのは、以前の想定をずっと上回るような円高で、リーマンショックや、ユーロ問題で急速に円高が進んだ。「手数料のみが高い」だけでなく、為替部分でも会社はものすごく大ダメージを受けている。手数料部分で最初に銀行から搾取され、為替変動部分で大損失になる。この両方で会社は苦しめられている。逆に、銀行は手数料が確実に確保でき、為替変動部分はリスクヘッジをおこなっていることが多い(ただし,前述のレシオの超過部分については,銀行はヘッジ不要である。
また,ノックアウトがあるときは,為替リスクが低いので,銀行は,ヘッジせずに,為替変動部分でも儲けようとしている可能性が高い)。

銀行は円安になれば損をする、というリスクを負ってはいるが、その部分はヘッジできる。為替部分は他行と取り引きして、ヘッジすることができるので、そうすれば手数料部分だけ利益を抜くことができる。現在は円高が進み過ぎている。銀行も戸惑うほどの円高が続いている。多くの会社に損失が生じると「社会問題化」されてしまう。

銀行からすれば、不都合なくらい円高が進んでしまったということだろう。

 金融庁からの販売規制はかかっているのか?

 岡林 ルールが厳格化されてきてはいる。2010年4月に厳格化され、契約時にこういうことを説明しなければいけないだとか、リストの項目が増えた。

三つの違法性

 「為替デリバティブ」の違法性とはどこにあるのか?

 岡林 われわれが訴えているのは三点ある。まず、①「為替デリバティブという商品そのものがおかしい(商品性がある)」こと。これは銀行への手数料が高すぎるうえに、銀行しか儲からないような商品設計自体がおかしい仕組みだ。次に、②「その会社に販売すること自体が間違い(適合性)」という点を指摘している。輸入実績がない会社や円建てで取引をしている会社、為替のオーバーヘッジの必要性のない会社にまで販売している。つまり、その会社にとって「適合性がない」にもかかわらず商品を販売したという問題を裁判所に提起している。最後に、③「商品に関する説明不足(説明義務)」。銀行は、商品の性質を十分説明しておらず、昨今の超円高のリスクを販売先の会社に伝えず、顧客はリスクの大きさを理解しないまま、商品を買わされた。

 デリバティブ全般に違法性があるということか?

 岡林 フォワードレートとの「差額」が為替デリバティブの原理だと私は認識している。つまり、銀行は数年間の平均レートで見たら自分たちが得することがすでに分かっているうえで、会社に売りつけている。これは「詐欺みたいな商品」だ。詐欺は、今回の為替デリバティブに限ったことではなく、過去にも、現在にも、また将来にも起こっているし起こるだろう。世の仕組みとして、「騙す」「騙される」という関係は常にあり、今現在ある「詐欺」は、この「為替デリバティブ」だろう。

 専門家ではないと分からないような商品を売りつけた、となれば当然銀行はコンプライアンスを問われるべきだ。

 岡林 被害に遭った会社は「銀行」というブランドを信用したが、その信用を悪用した。「詐欺まがいの商品」を売り付けること自体とても悪質だ。中小企業二万社のなかには「まさか銀行が自分たちを騙すとは思わなかった」という思いに駆られた経営者が少なくないはず。消費者金融が類似商品を販売に来たら間違いなく警戒されるが、銀行なら安心というイメージを一般に強く持たれている。その信用、信頼を踏みにじる銀行の行為は決して許される行為ではない。

 販売した行員が、為替デリバティブの商品知識をはたして十分持っていたか疑問だ。

 岡林 まったく理解していなかったと思う。一年目、二年目の若手行員が売りまくっていたというのが実情だ。輸入、輸出行関係なしに、とにかく購入してくれる会社には片っ端から販売した。他行が、その会社取り引きしていたら分かるので「うちの商品も、購入して下さい」と勧誘していたと思う。銀行に対して、会社は情報開示を積極的におこなっているので、資金繰り表などをみればどういう状況になっているかわかる。だから、他行の行員が、必死になって売り込みにやってくる。

銀行を怖れ何も言えず

 被害の実態がつかみにくい理由とは?

 岡林 弁護士に相談する経営者が少ないからだ。金融機関とのしがらみが強いからだろう。重い腰をなかなかあげきれない経営者が多い。基本的に、経営者ならば銀行と上手くつきあっていきたいと思っている。だから、銀行からお願をされれば、無下に袖を振るようなことはできない。中小企業では、どんなに会社が好転していても、いざ資金繰りが困った時のことを常に想定しているので、銀行とは仲良くやりたいと思っている。そのこころの隙を突く形で、銀行は為替デリバティブをいう詐欺まがいの商品を売り付けている。中小企業の経営者の皆さんには、今なお、そういう思いがあって、なかなか弁護士に相談しない方が非常に多い。約二万社の被害企業があるなか、弁護士に相談する会社は一割にも満たない。

 法律相談でもちこまれないのか?

 岡林 普通の相談とは違うので、専門知識が必要なので、対応できる弁護士も少ないのが現状だろう。ただ、ネットで探して相談を持ちかけてくる経営者の方もいる。そういう人は「利益の八〇%近くを銀行にとられている」「午後三時までは銀行のために(われわれは)働いているよ」といった話しをする人もいる。

 中途解約するとどのような違約金が発生するのか?

 岡林 違約金は当然発生する。しかし、契約自体無効を訴えるので、違約金を心配する必要はまったくない。

 契約は止められるのか?

 岡林 すぐに止まる。電話一本で契約は止まる。「明日の支払いを止める」と銀行に電話一本かけるだけで大丈夫。あと、他の借り入れにも影響されることはないので、為替デリバティブだけで苦しんでいるのであれば、すぐに止められる。

 銀行が食い物にする中小企業とは?

 岡林 そもそもカネのない会社は銀行からは全く相手にされない。逆に、カネがある会社は銀行に絞りとられる。日本には優秀な中小企業がたくさんある。ただ、トップが一人で判断している場合、良い技術を持っているが、銀行にコロッと騙されて、経理がボロボロになっていたりだとか、そういうケースはある。ただ、そういう会社は復活する可能性がある。きちんと為替デリバティブを処理すれば、会社はやっていけるはずだ。

 為替デリバティブの被害に遭った会社を銀行から守らなければ、日本は沈没してしまう。銀行を守ることよりも、二万社の優良中小企業を守ることが、日本を守ることになる。メガバンクは潰れることはないと思うし、たとえ潰れたとしても、二万社を守ることの方が大事だ。

 腰が引けて訴訟に持ち込めない会社も多いのではないか。

 岡林 とにかく、為替デリバティブで困っているのであれば、弁護士に相談してもらうことをお勧めしたい。その後は、直ぐに為替デリバティブの支払いを止める。その後、「金融ADR」の申立てだったり、訴訟だったり、という形がいいのではないか。

 銀行の「悪質さ」を感じる部分とは?

 岡林 被害者側からすれば、訴訟と金融ADRという手段がある。銀行は訴訟よりもADRの方がずっと良いと思っている。訴訟で形、前例が残ることを警戒している。その前のADRの話し合いの段階で、手を打ちたいと思っているので、銀行も極力ADRに持っていかせるようなプレッシャーをかけてくる。

 プレッシャーとは?

 岡林 遅延損害金が発生し、二カ月以内にADRの申立てをおこなってくれというような脅し。実際には、遅延損害金を請求されたからといって、どうってことはないし、それも含めて裁判で争えばいいこと。弁護士からすれば全く怖いことではないが、原告からすると腰が引けてしまうようだ。

 実際に脅された?

 岡林 銀行は「事を大きくしたくない」というのが本音だ。だから、遅延損害金以外の物理的ないやがらせはない。為替デリバティブについては銀行も「自分たちにも非がある」という認識を持っているからではないだろうか。

「判決をとる」ことが目標

 今後、どのような展開を考えているのか?

 岡林 中間的な目標として、裁判所からきちんとした「判決」をとりたい。それでもできるだけ早い時期に。現在、東京以外に、大阪、名古屋等、色々な地裁で争っている。色々な裁判官の判断を仰ぎたいと思っている。

 実際に判決が出るまでにどれぐらいかかるのか?

 岡林 大体一年から二年程度。現在係争中のものは、今年から来春にかけて、判決をとりたいと考えている。

 判決はこれまでに出ていないのか?

 岡林 福岡高裁で二件出ているが、これはデリバティブではあるが、「為替デリバティブ」ではない。変動金利と固定金利を変えるようなデリバティブだったが。それもほとんど商品自体がおかしいというようなことだが、その説明をきちんとしていなかった。ただ、デリバティブだけで請求を認める判決が出ているので、(為替デリバティブにとっても)大きい。大阪地裁で、説明義務を尽くしていないということで判決が下りているが。福岡については三井住友だが、多分上告し、現在最高裁だと思う。

 錯誤による契約無効で訴えているのか?

 岡林 公序良俗違反といってもいい。そもそも契約自体がおかしい。銀行が受け取る手数料はまちがいなく暴利で、為替変動部分は博打でしかない。レシオという契約は「詐欺みたいな契約」で、「ノックアウト条項」は不公平な博打だから、公序良俗違反だと主張している。「為替デリバティブの仕組みを理解しなかった」ということで錯誤を主張している。契約無効を訴えるうえで、この二点を主張している。さらに、適合性違反・説明義務違反で,不法行為の主張をしている。

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